ある観客のつぶやき

 神宮球場には不思議な魅力がある。東京23区内にありながら、球場内では、東京の空を一面に見渡すことができる。
 東京の空も捨てたものではない。そんな気分にさせてくれる球場だ。そこには、楽しい思い出も悲しい思い出も詰まっている。
 約2年前、史上初のプロ野球ストが決行されたのは、記憶と記録に新しい。

 その頃の私は、東京六大学野球秋季リーグ戦に足を運び、後輩たちにとって最後の戦いとなる試合の一つ一つに熱を入れていた。ストが決行された2004年9月18日・19日は、秋季リーグ戦の第2週にあたり、母校は優勝戦線に残るべく、連日熱戦を繰り広げていた。
 2戦では決着が着かず、試合は第3戦(2004年9月20日実施)までもつれ込み、均衡した試合は、この日も延長戦。同時に、スト明けのプロ野球を見るため、ヤクルトスワローズ阪神タイガースの観客が外野席を埋めていった。

 神宮球場には、試合が続く両大学のナインを見つめる観客と、いまかいまかと試合を待つ
観客の熱気で異様な雰囲気となった。
 試合は12回までもつれ込み、このカード2度目の引き分けとなると思われたが、ピッチャーの暴投により、母校が延長サヨナラ負けを喫する。
 母校の選手がベンチへと向かう足取りは重かった。

 そのとき、3塁側の外野席から罵声が浴びせられたのである。
 「何やってんだ、とっとと歩け!」

 今日の神宮球場の主役は、プロ野球だと言わんばかりの言い様だった。
野球界の存在意義も問われていたときだ。野球ファンは、プロもアマも関係なく、野球界を盛り上げていくべきなのではないか。怒りと悲しみがこみ上げた。

 声を嗄らして疲れた身体を照らす神宮の夕日がやけに熱かった。

 そして、2006年11月4日。

 今度は、史上初のプロ野球チーム対アマ野球の試合が神宮球場にて行われる。
ヤクルトスワローズと対するは、東京六大学野球選抜。法政大学の大引選手から先頭打者ホームランも飛び出し、アマチュアである学生たちが健闘した試合となった。
 試合後、ヤクルトスワローズの応援団と、特別編成された東京六大学応援団とのエール交換が終わっても、ヤクルトスワローズ応援団からのエールはしばらく止むことはなかった。
 プロとアマの枠を超え、お互いの健闘を称え合う。

 2年前を思い出し熱いものがこみ上げた私を神宮の秋風がやさしく包んでくれた。

 今年は神宮でどんなドラマが待っているのだろうか。