貫いてほしかった品格

 日本テレビ系で放送されたドラマ「ハケンの品格」の最終回にはがっかりしてしまった。篠原涼子演じるスーパー派遣大前春子が見せる人間味が、最高潮に達しったのだ。

 それまでも、自分が絵が下手なことに憤慨して取り乱したり、“キャラを貫く”ためだと資格を持っていない自動車修理に挑んだりと、スーパー派遣の綻びを少しずつ見せてはいた。

 “キャラを貫く”のであれば大前春子が主張してきた数々のハケンのモットーを最終回まで貫いてほしかった。

 最終回のラストでは、好きな男の側にいたいために、名古屋まで行く。そして、「あなたに社長賞を取らせるために来ました」と愛の告白にも等しい言葉を投げかける。社内恋愛は、社内の人間関係を複雑にする要因の一つなのに。
 え?会社の人間関係が面倒くさくなかったの?

 しかも、人材派遣会社を通さずに直接採用の交渉を始める始末。
 え?個人情報をさらけ出すことになるけれど、大丈夫?
 
 さらに、自給が3,500円に上がっていたにも関わらず、自給3,000円で雇ってくれという。彼女がスキルアップを重ねてきた成果が3,500円という数字に反映されていたのに。
 え?収入が下がっていいの?

 スーパー派遣であるとともに恋する乙女になってしまった春子先輩に、一視聴者としては、ただただ困惑するばかり。
 
 “働くことは生きることだ”と大前春子は言う。
 
 ドラマの各話での台詞の中には、派遣社員だけでなく働くものへのメッセージが込められていた。
 「ハケンの品格」とは「働くものの品格」に通じている。
 
 このドラマはフィクションである。

 非日常を提供するドラマであるからこそ、伝えられる真理がある。だからこそ、彼女には、ハケンとして、働くものとして貫いてほしいことがあった。

 人間は、日々様々な顔を見せていく――。 

 もちろん恋に生きる大前春子も大好きなのだが、ヒーローだと信じていたウルトラマンの中から人間が出てきてしまったときのような残念な気分を味わった。
(敬称略)